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アトランティスの亡霊

Ghost of Atlantis

【1-4-2】思っていたのとちょと違う感じ

思っていたのとちょと違う感じ

【1-4-2】


    【レイチェル】
        「ねぇ、聞いた ?」
        「あの先生プロなの ?」

    添下学園の通信を聞いて疑問に思った。

    【ナナ】
        「しらないわよ。」


    【添下学園ボギーフリート3:生徒B】
        「全艦、艦砲射撃用意っ!!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「大気成分の金属粒子により火器管制レーダーの精度が落ちてますっ!!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒B】
        「重力波を追跡できるか ?」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「ダメですっ!」
        「重力波推進はオフになっているようです。」
        「慣性重力波も水星の重力の干渉受けておりキャッチできません。」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒B】
        「仕方ない・・・。」
        「火器管制レーダーを光学画像で補正して照準するんだ。」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「了解」

    回り道していた添下艦隊は、低空スレスレの高度で飛行する東郷たちの駆逐艦を追い詰めるべく、全センサーを水星に向けて追尾を開始した。


    【みさ】
        「高度は ?」

    【さえ】
        「約、45メートルちょっと・・・」

    【みさ】
        「低すぎやしない ?」
        「(シミュレーターでなく)ホンモノだったら外の景色怖くてみれないかも。」

    【さえ】
        「あと、もうちょっとで、上昇に入るわよ。」

    上昇と言っても、本当は水星の惑星面境界軌道から重力を利用してダイブし、地表スレスレで水星の真近くを一直線に横切る。 なので、上昇するように見えるだけだ。


    【東郷】
        「上空の艦隊をけん制する」
        「目標を任せる」
        「艦砲射撃、撃ち方始めっ!!」

    【みさ】
        「アイ・サー」

    3隻の駆逐艦の火器システムをまかされたみさが、一番先頭の艦を狙い撃ちにして砲撃を開始する。
    添下艦隊も人工電子結界を展開して防御に入る。

    【添下学園ボギーフリート3:生徒B】
        「迎撃開始っ!」
        「押さえこんで二度と浮き上がってこれないようにしろ」

    添下艦隊からの艦砲射撃に対して、さえが、鉄壁の防御結界で抵抗する。

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「あのシールドはやはり突破できません」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒B】
        「それなら、魚雷で仕留める」
        「真空の宇宙と違い、大気圏での核は何百倍と何千倍と威力が増すぞ。」
        「いくら熱光学兵器に耐性のあるシールドでも物理的な高圧にはナノマシンは耐えられないだろう。」
        「雷撃戦用意っ!!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「アイ・サー」


    【東郷】
        「そろそろだな。」
        「亜光速ドライブ最大戦速」
        「全艦、フルアヘッフル」(全舷全速前進)

    砲撃をかいくぐるように水星の地表スレスレをすり抜け、最大速度で脱出コースに入った。

    対して上昇してくる駆逐艦を迎え撃つべく添下艦隊は

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「魚雷発・・・」
    発射を命令しようとした瞬間
    熱センサーに感知したアラートが鳴り響く。

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「惑星面境界軌道に微弱な熱源を探知っ!!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「何っ!?」

    索敵センサーをRWS(※1)に設定し防空範囲に限定して探査した。
    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「こ・・・これは雷撃ですっ!!」
        「数は不明、おそらく・・・多数ですっ!!」
        「センサーをSTT(※2)にモードにしていた為に発見が遅れましたっ!!」
        「回避間に合いませんっ!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒G】
        「人工電子結界を再展開っ!!」

    添下艦隊は、帯締の駆逐艦からの砲撃に対抗して船体下部に強固なシールドを集中させていたがシールド発生器は、シミュレーターの制約(ルール)により1隻に1個しか配備されていない。
    この為、複数のシールドの展開は出来ず、別方向からの攻撃に対しては脆弱になる。

    添下艦隊はシールドの再構築が間に合わず、次々と魚雷が命中していく。


    特設シミュレーター会場のスクリーンから次々と消えていく添下艦隊に場外のスタンドがどよめく。

    【ナナ】
        「添下学園ボギーフリート3の半数をすべて沈めた・・・。」
        「たった3隻の駆逐艦でそんな事が出来るの ?」

    添下学園に一勝もしたことがない帯締学園にとってはにわかに信じられない光景だった。

    【フクちゃん】
        「艦砲射撃を加えて牽制し、センサーを自分に引きつけて魚雷の発見を遅らせたんだ。」
        「しかもシールドを再展開するタイミングまで読みきっていた・・・。」

    【レイチェル】
        「とんでもない教官がやって来たものねぇ・・・。」
        「私、狙っちゃおうかしら ?」
        「いい ?」

    【ナナ】
        「な、なんで、私に聞くのよっ!!!」
        「関係ないって言ってるでしょっ!」

    【レイチェル】
        「ふーーん。 いいんだ ?」

    【ナナ】
        「ばかっ!」
    力いっぱい、レイチェルの足を踏みつけた。

    【レイチェル】
        「痛っぁぁぁぁ。」
        「何怒ってるのよっ!」



    一方、東郷たちの後方から追っていた添下艦隊
    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「先回りに向かった連中はどうなった!?」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「センサーでは、水星の大気にゆらぎを観測していますので大気圏付近で大規模な戦闘が行われたのは確かのようです。」

    センサーの感度を調整しつつ索敵を続行しているとセンサーが反応をキャッチした。
    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「大気圏を高速で移動する物体を感知っ!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「帯締の旗艦とは逆方向の進行だな・・・。」
        先回りの味方艦が一周してきたのか?

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        ・・・と言うことはすべて沈めたのか?
        いや、旗艦が沈めば、その時点でケームセットだ。
        まだシミュレーションが続行していると言うことは・・

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「識別、帯締艦隊ですっ!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「ちっ!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「やつらは反転して逃げてきたのでしょうか?」
        「後方には先回りした僚艦が ?」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「いや、違う・・・」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「ぇっ!?」
        「どういうことですか?」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「ヤツらはスイングバイを思わせるほどの加速で我が艦隊を振り切ろうとした。」
        「その反対方向から先回りした我が分隊と遭遇した結果、急遽反転して戻ってくるなんて考えられない。」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「まさか・・・」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「先回りした連中は、全滅したと思う・・・。」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「・・・」
    ありえない事態にクラスメートは言葉を失った。

    冷静に情勢を分析し、正体を見ぬいた。
    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「前方に感知した艦は、フネではないっ!!」
        「囮(識神)だっ!!」


    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「敵艦は太陽へ向けて水星をスイングバイして、我が艦隊の旗艦に迫るつもりだっ!!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「識神はどうします ?」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「戦闘力のない囮は無視して良いっ!!」
        「敵艦を全力で追うぞっ!!」
        「全艦、雷撃戦用意っ!! 全弾叩き込むぞっ!」
        「敵艦の亜光速ドライブの熱源にホーミング!!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「アイっ!」
        「全艦雷撃戦用意っ!!」
        「核弾頭装填っ!!」
        「VLSをフルバーストにセットし2秒間隔で射出っ!」
        「敵艦の亜光速ドライブ熱源探知と同時に全弾を発射っ!」

    しかし、いくらセンサーの感度を上げても一向に、帯締艦隊の旗艦は姿を見せない。

    それもそのはず。
    水星の重力を利用した帯締艦隊の旗艦は、地表ギリギリまで急降下して十分に加速していた。
    大気圏脱出する為に必要な運動エネルギーを補足するには、ほんのすこしだけさらに加速が必要だったが、瞬間的に亜光速ドライブを使用するだけで十分事足りた。
    さっさと、パワーを切って惰性で航行を開始すると、亜光速ドライブから発せられる輻射熱を抑えるために冷却を始めた。
    その為、亜光速ドライブが発する高温の熱を探知できなかったのである。

    一歩間違えば地表に激突する難易度の高い航法だが、特設シミュレーター会場のスクリーンを見ていた帯締の生徒たちはその模様を食い入るように見ていた。
    いや、正確には言葉を失ったと表現した方がいい。

    【ケンジ】
        「東郷・・・本当に民間人やってたヤツなのか ?」

    【ヒジキ】
        「さえ教官とみさ教官とも、まるで以前から知っていたような完璧な連携ですよね。」
        「春に赴任してきた新任とは思えないっす。」

    東郷達の旗艦・・・とは言っても旗艦はさえ担当だが、彼らを必死で探す添下艦隊に、突如、武器システムにロックされた事を示す警報アラームが響き渡る。


    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「微弱な熱源多数感知!!」
        「魚雷ですっ!!」
        「Pingを打たれ、こちらの場所が特定されましたっ!」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「どこからだっ?」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒C】
        「方向からして識神です・・・。」

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「バカなっ!」
        「識神が雷撃するはずなんか・・・。」

    東郷達が、水星の大気圏内に突入する直前に放出した識神と魚雷だった。
    魚雷がPingを打ってきたと言うことは、予め目標としていた地点に到着し、そこにいると予想される獲物に向かってレーダーを照射し、そしてその結果、最終的な目標の正確な位置を捉えた事を意味し、それはもう魚雷は突入モードに入った事も意味していた。
    つまりセンサーを索敵モードから防空用に切り替え、迎撃体制を取るにはあまりに時間が足りなかった。

    もうどこから魚雷がやって来たかはどうでもよかった。
    無害な囮と誤認させ、随伴していた探知が困難な魚雷から注意をそらす事が目的で、敵の狙いは、我が旗艦ではなく、我々の殲滅を狙ってのものだった事を瞬時に悟る。

    【添下学園ボギーフリート3:生徒A
        「シールド緊急展開っ!!」

    指示を出し終わったと同時に、着弾アラームが鳴り響く。


    特設シミュレーター会場のスクリーンを見ていた、帯締の生徒たちは唖然としてしばらく沈黙していたが、やがて歓喜の渦となった。

    【レイチェル】
        「すごいっ!」
        「ボギーフリート3の30隻を全滅させてしまったよっ!!」

    【ナナ】
        「ぁ、悪夢を見ているようですわ。」

    【レイチェル】
        「何言ってるの、素直に喜びなさいよっ!!」


    【ナナ】
        「サッチの艦隊も耐えていますわね」

    【レイチェル】
        「あちら(ボギーフリート2)も、残すは3隻になったわね。」

    【アンナ】
        「ボギーフリート2が後退していくわ。」

    【ナナ】
        「ボギーフリート3が全滅したことで、艦隊の再編が必要になったのよ。」
        「いよいよ、敵の旗艦がおでましよ。」
        「ボギーフリート2はこれと合流するつもりよ。」




    【サッチ】
        「なんだか、教官に助けられちゃいましたね。」

    【サダッチ】
        「でも、おかげで、こちらの全滅は避けられそうよ。」

    【サッチ】
        「油断しちゃダメよ。」
        「まだ敵には旗艦が残っているのよ。」

    【サダッチ】
        「わかってますよ。」

    【サッチ】
        「とにかく、いったんこの場を離れて旗艦と合流しましょ」
        「敵も残勢力でやって来るわ。」
        「こちらも全力で旗艦を守らなきゃ。」
        「生き残った子たちに指示をだして。」

    【サダッチ】
        「わかったわ。」

    【東郷】
        「みさ、さえ、生徒たちと合流して、敵の残存艦隊からの反撃に備えてくれ。」
        「私は野暮用があるので、艦隊から離脱する。」

    【みさ】
        「どこへ?」

    【東郷】
        「もうじき、招かざる客がやってくるので返討ちしに行ってくる。」

    突然、国際周波数を使って怒鳴りこんでくる声が、特設シミュレーター会場のスピーカーからデカデカと流れてきた。


    【アンナ】
        「ぇ、!? 誰 ?」

    【レイチェル】
        「さ、さぁ・・・誰でしょうね ???」



    【十三】
        「東郷っ!!」
        「どこだぁーー!」
        「出てこいっ!」

    特設シミュレーター会場のスクリーンでは、太陽の裏からまだ一度も姿を見せたことのなかったボギーフリート4のエコーが出現した。
    その中から1隻だけ、突出して高速で飛び出してくる駆逐艦をセンサーが捉える。

    【東郷】
        「うるさいっ十三っ!!」
        「まだくたばっていないのか?」
        「このクソじじいがぁっ!!」

    【十三】
        「なんだと!!」
        「お前はまだクソガキだろう!!」



    【ケンジ】
        「し、知り合いなのか ?」

    【ヒジキ】
        「・・・のようですねぇ。」



    【十三】
        「最近、娘の帰りが遅いと思っていたら、貴様かっ!!」
        「原因はっ!!」

    【東郷】
        「はぁ、何言ってやがんだ。」
        「そんな訳ぇねーだろっ!」

    【十三】
        「娘が私を避けるようになったはお前のせいだっ!!」
        「一日に何十もメールをしているのに全然返ってこないっ!!」

    【東郷】
        「しらねーよ!」

    【十三】
        「誕生日にケーキ買って帰っても、"友達と食べてきた" と、すぐ自分の部屋にいっちまう。」

    【東郷】
        「・・・。」

    【十三】
        「たまに、お風呂に誘ったら、"死ねっ"って言う始末。」

    【東郷】
        「当たり前だっ!」
        「原因は、テメーだろっ!!!」


    特設シミュレーター会場とスクリーンは、もちろん添下学園にも設置されている。
    退場して見学していた生徒達は、国際周波数の無線のやりとりでざわついていた。

    「ヤツはあの赤鬼と知り合いなのか?」
    「東郷って誰なんだよ。」
    「しらねーよ。」
    「赤鬼とタメで話せるヤツなんか見たことないぞ。」

    それぞれの艦隊から離脱した東郷と十三の駆逐艦は、お互いを罵りながら、格闘戦にもつれ込んだ。

    十三は長きにわたって、アトランティス艦隊を率いてきた、歴戦の勇者。
    あっと言う間に、東郷の背後に回る。
    しかし、東郷もすかさずスプリットS(※3)で回避して火器システムのロックから軸線をずらす。

    【十三】
        「将来は、"お父さんと結婚する" って、言ってくれてたのに、今は近寄りもしない。」
        「お前のせいだっ!!」

    【東郷】
        「いい加減、子離れしろっ!!」

    【十三】
        「ここでお前を沈めれば、ワシの偉大さに気付いて戻ってくれる筈だ。」


    とつぜん、国際周波数の会話に飛び込んできた。
    【みさ】
        「お父さんの馬鹿っ!!」

    突然の出来事に事態を飲め込めなかった。
    【ナナ】【サッチ】【サダッチ】【レイチェル】【アンナ】
        「・・・・・・・・・・・・」

    【ナナ】【サッチ】【サダッチ】【レイチェル】【アンナ】
        「お父さん ?」

    しばらく沈黙が続いたが。

    【ナナ】【サッチ】【サダッチ】【レイチェル】【アンナ】
        「ぇえっっっーーーーーー!!! ???」

    【フクちゃん】
        「ぁ、エントリーリスト見れば、僕達が普段から、赤鬼赤鬼って言ってたあちらの教官、"南雲十三" って書いてますねぇ。」
        「みさ教官の父上でしたか・・・。」

    【レイチェル】
        「いままで全然気が付かなかったよ・・・。」

    【ナナ】
        「"南雲十三" って ???」

    【アンナ】
        「アトランティス艦隊の英雄だよ。」
        「どうして添下学園で教官やってんだろうねぇ。」



    【みさ】
        「いい加減にしないと、怒るわよっ!!」

    【東郷】
        「へへーーーん♪  怒られてやんの。」

    【十三】
        「くそっ東郷ぉぉぉ!!」
        「貴様だけは絶対に許さんっ!!」
        「娘も渡さんっ!!!」

    【みさ】
        「こらぁ、本当にいい加減にしないと、お母さんに言いつけるわよっ!!」

    【十三】
        「みさちゃんは、お黙り。」
        「今、お父さんは、東郷と大事なお話をしているからね。」

    【東郷】
        「家族の問題をこっちに振るなっ!!」

    東郷の艦が十三をロックするが、ベクタード・スラスト(※4)で無理やり反撃してくる。
    東郷はやむなく、ロックを解除してブレイク(※5)する。

    背後を見せたことで、今度は十三が多数の対艦ドローンを放ってきた。
    東郷はチャフディスペンサー(※6)をバラマキつつヴァーティカルローリングシザース(※7)で回避を行う。


    複雑な戦闘機動の航跡が特設会場のスクリーンに映し出される。

    【レイチェル】
        「フネの戦いというより、戦闘機ね・・・。」

    【十三】
        「ちっ、チョコマカと」

    【東郷】
        「くっ、このジジイ、全然戦闘力が落ちてねーし。」

    【十三】
        「ふん、ワシの寿命は貴様らより遥かに長いんだ。」

    いったん、両艦は距離をとり、再び正面から撃ちあいながらすれ違う。


    【サッチ】
        「オポジットコンティニュアス・ロール!!」(※8)

    【サダッチ】
        「日本空軍のアクロバットチームが用いている科目でそんなのあったわね。」


    【ケンジ】
        「いくら軽量高速の駆逐艦とはいえ、フネだぞっ!!」


    添下学園のボギーフリート4も、サッチの艦隊への追撃体制をとりつつも、赤鬼の駆る駆逐艦と、東郷の駆逐艦のバトルに注目していた。

    「あの赤鬼と互角に渡り合えるヤツなんて今まで見たことがないぞ。」
    「俺も、赤鬼のホンキの戦術機動は初めて見た!!」

    「って言うか、帯締のシミュレーターってスフィアブリッジ対応していたっけ ?」

    「ぇっ!?」

    「我々には企業スポンサーがついてるから、シミュレーター環境はできるだけ最新の設備が導入されてるけれど、帯締学園に配備されているなんて聞いたことがないよ。」

    「そう言えばそうだな・・・。」

    「って事は、あの帯締の教官は旧型コンソールで戦ってるのか ?」

    「うそだろ!?」

    「あんな時代遅れの端末で最新のスフィアブリッジ対応シミュレータ艦と互角に戦えるものなのか ?」

    「そういえば、帯締に赴任してきた新しい教官は鬼だって話だぜ」
    「赴任早々、言うことを効かない生徒を体育館で体罰したって噂だぜ」

    「うわっ今どき体罰かよ。 サイテーだな」

    「そうそう、女子寮に忍び込んで教え子の裸を盗撮したって話もあるぜ。」

    「うわっ鬼だ。」

    「うん、鬼だね・・・。」

    ・・・て通信が帯締学園の特設シミュレーター会場のスピーカーから流れていた。


    【アンナ】
        「ぇ、えらい言われようですわね・・・。」
        「って言うか、鬼の意味がズレているし・・・。」

    【ナナ】
        「じ、自業自得よっ!」

    突然、シミュレータ訓練が中断するアナウンスが流れた。

    【十三】
        「あともう少しで小僧の首を獲るところだったのに何事だっ!?

    十三の方に緊急の電文が届いたらしい。

    【十三】
        「ちっ」

    舌打ちして、ログアウトする手順に入った。

    【東郷】
        「どうした?」

    【十三】
        「ここだけの秘密だ。」

    【十三】
        「アルファケンタウル星系で試運転していた伊勢と日向からの音信が途絶えた。」

    【東郷】
        「なんだと?」

    【十三】
        「どうやらアンドロメダ艦隊と遭遇して交戦状態となったらしい。」
        「随伴していた島風が沈んだらしい。」
        「ワシに緊急招集が掛かったので、すまぬが引き上げる。」

    【東郷】
        「あそこはダイダロス鎮守府があった筈だが。」

    【十三】
        「アンドロメダ艦隊とダイダロス艦隊との要塞攻略戦が勃発したようで、伊勢と日向はたまたまそれに遭遇したらしい。」
        「伊勢と日向はダイダロスの支援に向かうとの通信を最後に連絡が途絶えてしまった」
        「ワシは今から現場に向かう。」

    【東郷】
        「そっか・・・なら仕方あるまい。」
        「無理はするなよ。」

    【十三】
        「当たり前だっ!! 小僧に言われたくはないわ。」


    シミュレーターによる模擬戦は、添下学園の途中棄権により帯締学園の勝利と言うなんとも後味の悪い結果に終わってしまった。

    生徒たちは教室に戻ってきたが、傍受していた通信の内容でざわついていた。

    【サダッチ】
        「どういうことよ?」
        「伊勢と日向は日本艦隊の最新鋭戦艦でしょ ?」
        「沈んだの ?」

    【サッチ】
        「シッ!!」
        「声が大きいわよっ!」
        せめてナノリンクにしなさいよ。

    添下の赤鬼が "秘密だっ" て、言っていたことを思い出し、教室の生徒たちはナノリンクに切り替えた。
    【レイチェル】
        たしか、扶桑の発展改良型だったわよね ?
        我がアメリカも伊勢タイプを5隻ほど建造する予算案が上院で可決されたと聞いてるわ。

    【ナナ】
        まだ "沈んだ" とは決まってないわ。
        音信が途切れたとしか言っていないわ。

    【アンナ】
        でも、島風が・・・。

    【サッチ】
        そうね。
        島風は沈んたと言ってたわ。
        乗組員たちは無事だといいのですが・・・。

    【サダッチ】
        ねぇ、軍のサーバーに潜れないの ?

    【フクちゃん】
        ぇぇ!?
        そこで、ボクに振るんですか ?

    【サダッチ】
        軍のサーバーにダイブ出来るの、アンタとまっちゃん以外に誰がいるの ?

    【まっちゃん】
        ぇぇ!?
        むりむりむりむりぃぃぃぃ!!
        私は無理よっ!!

    【サダッチ】
        大丈夫よ、かわいいまっちゃんには犯罪行為は絶対にさせないからっ。

    【フクちゃん】
        ちょっちょっちょっ、ボクならいいんですか ?
        みさ教官に聞いた方が早いんぢゃないですか ?
        お父さんなんだし・・・。

    【サッチ】
        あの教官から聞き出せると思って ?

    【フクちゃん】
        う・・・。
        では東郷教官は?
        あの人なら、赤鬼と知り合いみたいですし・・・。

    【全員】
        ぁ、ヤツはどこへ ?

    東郷が居ないことに気がついた。

    そこへ、みさが教室に入ってきた。

    【みさ】
        「何コソコソ話しているの ?」

    【サダッチ】
        「ぁ、いえ、何も話ししていませんよ。」
        「あはは、あはは」

    【みさ】
        「馬鹿ねぇ」
        「教室に入って、普段やかましい君たちが全員が黙ってる・・・。」
        「んな事あるわけないでしょ。」

    さすが教官だけあって生徒をよく見ている。

    【みさ】
        「ナノリンクを使用しているのは、バレバレですよ。」

    【サッチ】
        「すいません。」
        「伊勢と日向の件で・・・。」

    【みさ】
        「んーーー。 あれねぇ。」
        「私もよく知らないわ。」

    【サッチ】
        「みさ教官のお父様はなんて ?」

    【みさ】
        「聞けないわよ。」
        「聞けたとしても君たち学生には話せる内容ではないと思うの。」

    【サッチ】
        「そ、そうですよね。」

    【ナナ】
        「皆さんが気になさっているのは、おそらく今回の出来事が、太陽系の目と鼻の先にあるアルファケンタウル星系で起こった事です。」
        「もうじきこの宙域も戦場になるのではないかと・・・。」

    みんなが聞きたかった事を切り出してくれた事で、教室中がすこしざわついた。

    【みさ】
        「そうね。」
        「この宙域もいよいよ危ないかもしれませんわね。」

    ある程度予想していた答えではあったが、現実になるかもしれない不安で一瞬で教室が沈黙した。

    【みさ】
        「みんなも知っての通り、天の川銀河外苑に位置するパージル星系での会戦でダイダロスが敗退しそれ以降も劣勢な情勢が続いているわ。」
        「ダイダロス評議会は太陽系宙域からの撤退を勧告しましたが、我々アトランティス残党軍としては地球を放棄できないとしてこの宙域に留まっています。」
        「その隣と言って良いアルファケンタウル星系での戦闘は、この宙域も安全ではなくなったと言うことを意味しています。」

 

    【みさ】
        「ただこの宙域には、アース級の機動要塞を中心としたダイダロス艦隊の鎮守府が展開しています。」
        「太陽系周辺には、これとは別に3つのアース級の機動要塞と鎮守府が配備されており太陽系の守備にあたっています。」
        「アンドロメダ軍はそう簡単にはこれらを突破できないでしょう。」
        「ただ、だからと言って安心と言うわけでもなく、あくまでアンドロメダ軍侵攻に対する橋頭堡にしかすぎず、いづれ戦場は拡大し、この宙域にも及ぶでしょう。」

    【みさ】
        「みんなは、この戦いに備える為の訓練を受けているのよ。」

    【サッチ】
        「なんだか、まだ実感湧きませんよね。」

    【みさ】
        「そりゃ、銀河をめぐる大戦争ですからねぇ。」
        「私達のようなちっぽけな存在からすれば、スケールが大きすぎて自分が戦争に投入されたところで戦局に与える影響なんて皆無と思うのは当然の話しよ。」

    【ナナ】
        「それより、あの馬鹿は ?」

    【みさ】
        「ああ、あのひとね・・・。」
        担任の教官を馬鹿よばわりするとは・・・。

    【全員】
        "馬鹿" で誰のことか通じるんだ・・・。

    【みさ】
        「痛み止めが切れてのたうちまわってたから、タクシーで寮に帰したわ。」
        「きっと、今頃脂汗ながしてるわ。」

    【みさ】
        「気になるの ?」

    【ナナ】
        「べっべつに気にはしていないわよっ!」
        「ただ、勝手に病院抜けだして勝手にシミュレーターに参戦して、それで傷口が広がったらどうするつもりななのかと・・・。」

    【みさ】
        「あら、世間では、それを気になるって言うのよ。」

    【ナナ】
        「むむ・・・。」

    【みさ】
        「さて、ダイダロスの戦局も気になるでしょうけれど、君たちがやるべき事は、はやく一人前になることよ。」
        「今日のシミュレーターでの模擬戦は、本来の意味での勝利とはいえなかったけれど、それでも戦いと言うのは、発想次第で、圧倒的に不利な状態でも戦局を一変させられるって事がわかったと思うの。」

    【みさ】
        「では、今日のところは以上で解散。」
        「寄り道しないで帰るのよ。」


        (※1)RWS・・・Range While Search
                索敵レーダーの仕様の一つで、対空監視用として中距離のレンジを捜索する。

        (※2)STT・・・Single Target Tracking
                索敵レーダーの仕様の一つで、火器管制システムが
                攻撃目標に対し目標を追尾する為に短い間隔で電波を放射する。
                確実に火器システムが目標を捉えて追尾を開始するとロックオン状態となる。
                複合センサーが主流となっているこの時代では、マルチトラッキングモード
                と呼ばれ、長距離索敵とロックオンは同時多数の目標に対して行えるが、
                シミュレーター環境ではイコールコンディションを目的に
                シングル・モードのみに制約がかけられている。

        (※3)スプリットS・・・重力に対して、水平航行中から180度ロールし背面になり、そのまま重力方向へ
                宙返りして水平航行に復帰する機動。
                宇宙艦に基本的には上下の概念は存在しないが、内部構造物の配置上、重力影響下では
                内部構造に配慮した機動を行う必要がある場合もあり、その場合に背面航行になったりする。
                スプリットSとは逆に重力とは逆方向へターンする機動をインメルマンターンと呼ばれる。

        (※4)ベクタード・スラスト(推力偏向)・・・本来は、推力偏向を行う航空機の戦術機動を指すが、
                宇宙艦では、スラスターを使用しての戦術機動を指している。
                ほとんどの宇宙艦の亜光速ドライブは推力偏向が可能だか、航空機と比較して質量が大きいため、
                スラスターを併用することで機動力を補っている。
                東郷がシミュレーターで見せた重力アンカーを使用したターンは、推力を利用したものではなく、
                重力の牽引力を利用したもので、船体にもダメージを与えかねない危険な方法で、
                アンカー・フック・クレイジーと呼ばれている。

        (※5)ブレイク・・・敵艦(機)の追跡を振り切るために行う急旋回を指す。
                または、艦隊(編隊)を解き、各艦(機)独自の行動へ移行する場合を指すこともある。

        (※6)チャフディスペンサー・・・レーダー式センサーを撹乱する為に使用する金属片。
                金属片を無秩序にバラまく事で、電波を乱反射させ、センサーに探知されないようにする。
                しかしデブリ化防止の為にナノマシンにより構成されており、一定時間経過後は分解消滅するようになっている。

        (※7)ヴァーティカルローリングシザース・・・重力に対して、垂直降下または急上昇しながらバレルロールと
                シザースを組み合わせてブレイクする機動。

        (※8)オポジットコンティニュアス・ロール・・・2隻(機)が、お互いに正対してすれ違う機動。
                各艦(機)がお互いの射線を回避するため艦体(機体)回転させながらスレスレをすれ違う。
                日本空軍のアクロチームに似た機動をする演目があり、そこから名付けられた。

 

 

 

 

 

 

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