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アトランティスの亡霊

Ghost of Atlantis

【1-3-4】基本をまなぶ

基本をまなぶ

【1-3-4】

    「総員おこし」の号令がかけられた。
    本来、この号令は艦内クルー全員を総動員する際にかけられる号令だが、シミュレーターでの模擬戦では、気合を入れるために号令としてかけられている。

    航空機のライセンスは、原則として実機での操縦訓練を経て航空機毎にライセンスが発行されるがアトランティス軍の規則では、宇宙艦の操艦免許は、シミュレーターで獲得したポイントによりライセンスが発行される。
    シミュレーターの操艦方法と実際の操艦と大差がない為に可能なライセンス発行システムだ。
    操艦訓練は、艦隊幹部候補の必須科目ではあるのだが、だれでも簡単にシミュレーターを動かせるわけでもなく、苦手とする者の方が多い。
    しかもこのシミュレーターの成績が良くてライセンスをもらえたとしても、あくまで操艦が可能となっただけで、機関課や砲術課、航海課などには個別の技能を習得する必要がある。
    ただ、操艦方法は艦の大きさや艦種によった大差が無いため、艦種別のライセンスが存在しないところが航空機操縦免許と異なる点だ。
    このライセンスの有無で、個々の実力を示すステータスとなる訳で、シミュレーターでの海戦で気合が入るのは当然なことであるのだ。


    体育館(別名:屋内バトルフィールド)に設置された特設シミュレーター会場では、操縦桿とヘッドアップモニターがセットになっている簡易シミュレーターが用意されており、訓練生は割り当てられた番号の席に着席していく。

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    ●第2戦隊
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    【シャルロット】
        「良子、ちゃんと援護しなさいよね。」
        「ヘマしたら絶対に許さないんだから。」
        「2組は切り込み隊なんだから、ノロマだと1組も巻き添えになるから、私達に迷惑をかけると思ったらさっさと撃墜されて離脱しなさいよっ!!」

    【良子】
        「ぅん、わかった。」
        「わたし頑張る。」

    【シャルロット】
        「頑張るぢゃないの!」
        「ノロマが頑張って、ヘタに粘ったら艦隊の連携が崩れるのよ。」
        「分かってないわねぇ。」

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    ●第1戦隊
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    【なるみ】
        「もっちゃん? 大丈夫?」
        「口数すくないけれど。」

    【もっちゃん】
        「ん?」
        「何?」
        「私は大丈夫よ」
        「私よりシャルロットは大丈夫かしら?」

    【なるみ】
        「あの子だけ第2戦隊ですもんね。」
        「でも大丈夫よ。 気が強いから。」

    【フランシーヌ】
        「第1戦隊も突撃すれば、どうせ乱戦になるんでしょ?」
        「シャルロットの援護に向かっていいかしら?」

    【もっちゃん】
        「第1戦隊はサッチが指揮しているから、ちゃんと指示を仰ぐのよ。」
        「私達は謹慎中なのだからあまり勝手なことはしないのよ。」

    【フランシーヌ】
        「ぅん、分かった。」

    開戦5分前になると、艦の移動が可能になる。

    【サッチ】
        「有賀から第1戦隊全艦へ」
        「全艦、レッコー」(重力アンカー解除)
        「スタンバイエンジン」

    駆逐艦の動力炉が発生させる電力が重力波ドライブに供給が開始されていく。

    【サッチ】
        「ミジップ」(舵中央)
        「スローアヘッツー」 (両舷微速前進)

    宇宙艦は、洋上艦とは異なり、左舷、右舷とは別に、上舷、下舷が存在しており、低速で移動する際は、左右の両舷しか動力を使用しない場合が多いが、巡航以上になると、上下舷も使用し、このときは全舷と呼ばれる。

    【サッチ】
        「1A番通過」(1Aの宙航ブイを通過)

    最後尾を担当するまっちゃんが1Aを通過した。
    この1Aブイは、今回の模擬戦でのスタート地点を意味している。
    【まっちゃん】
        「全艦、1A番通過よし」(艦隊の1Aの宙航ブイを通過を確認)

    【サッチ】
        「おもて右回頭、バウ左いっぱい」

    全艦隊が艦首左側のスラスターを点火し、右へ回頭していく。※1


        ※1 スラスター
            姿勢制御用エンジンの事を指す。


    宇宙艦は航空機や潜水艦と同様にスロットルと操縦桿で操舵する方式となっており、シミュレーターも同様なシステムとなっている。
    実際の艦を操縦するにはもっと多くの人員を要し、AI機能の支援も受けられるが、シミュレーターはあくまで操艦の訓練を目的としているので1人でフネを動かす。


    【サッチ】
        「スラスターセンター」(スラスターを中央に戻す)
        「おもて下回頭、バウ上いっぱい」

    続けて艦首上側のスラスターを点火し、下へ回頭していく。

    【サッチ】
        「スラスターセンター」(スラスターを中央に戻す)
        「ハーフアヘッフル」 (全舷半速前進)

    訓練生は、ヘッドアップモニターに表示されるセンサーのみの情報を頼りに自艦の位置関係を把握し、フネを進めていく。

    【ナナ】
        「開戦1分前です。」

    【サッチ】
        「ミジップ」(舵中央)
        「全艦リングアップ」(巡航に移行)


    【ナナ】
        「オープンコンバット!」(戦闘開始)

    各艦、約50Km間隔で隊列を組み進軍を始め訓練生のモニターにも航跡が描かれていく。

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    ●第2戦隊
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    【レイチェル】
        「第2戦隊全艦へ」
        「ジェネレーターミリタリーパワー」(発電機を戦闘出力に移行)※2
        「30カウント、ショートジャンプ」(30秒後に超短距離ジャンプへ移行)


        ※2 発電機
            ネガティブグラビティドライブを駆動するに必要な電力を得るには発電機を必要としている。


    【レイチェル】
        「ネガティブグラビティドライブ、ジャンプモード起動」
        「各艦、ジャンプゲード設定」

    訓練生は手順に従い、事前に申し合わせたジャンプポイントの座標を入力していった。

    【アン】
        「各艦のジャンプモード起動を確認したわ。」
        「レイチェル指揮任せたわよ。」

    【レイチェル】
        「OK!」
        「まかせて」

    【アン】
        「10秒前!」
        「各艦のジャンプサイン発信を確認」
        「これで、こちらの作戦があちらにも届いたわよ。」

    重力ジャンプは、強力な牽引力で巨大な質量を引き付けることで光速をこえる速度で移動を可能するテクノロジーだが、質量の小さなデブリや小型機なども引きつけてしまうため、銀河間戦争での各陣営は事故防止のために、ジャンプサインを発信する事が暗黙の了解となっている。
    しかし、それは敵に自分がジャンプする事を知らせることにもなるが、サインを出さない事で発生する事故の方がダメージが大きくなるので、よほどの理由がない限りはジャンプサインを発信している。

    【レイチェル】
        「全艦、ジャンプっ!!」

    加速度を打ち消す慣性制御の立ち上がりに合わせて、艦の速度が徐々に増し、数秒後には第2戦隊の姿が短距離センサーから消えた。

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    ●第1戦隊
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    【ナナ】
        「行っちゃいましたね・・・。」

    【サッチ】
        「ナナ、旗艦の位置は?」

    【ナナ】
        「隊列後方の10000Kmをこちらの速度に合わせて航行中です。」

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    ●第2戦隊
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    第2戦隊は太陽と水星の中間地点にジャンプアウトしていた。

    ただちに艦隊編成を整え、指示をだす。
    【レイチェル】
        「全艦、亜光速ドライブ起動」
        「全艦、フルアヘッフル」(全舷全速前進)

    【アン】
        「各艦、対空監視厳にせよ」

    ジャンプサインを感知した添下艦隊の迎撃艦をセンサーが捉える。

    【アルフォンス】
        「パッシブセンサーに敵艦補足、数10、光速10分の1」※3
        「こちらへ直進してきます、すでに捉えられているものと思われます。」

    【レイチェル】
        「艦隊戦用意」

    【アン】
        「人工電子結界展開っ!!」

    敵センサーにキャッチされた警報音が鳴り響く。
    【アルフォンス】
        「重力探査、Ping 打たれました。」※4
        「こちらの位置情報確実にキャッチされました。」


    【アン】
        「全艦、回避っ!!」
        「重力探査、Ping打てっ!!」
        「前方の10隻以外の艦を探せっ!!」

    【ジャンヌ】
        「Ping、全天探査、1発 発射っ!!」
        「下方に重力反応、距離7Ls! 数10」※5

    光速で7秒、地球と月の約5倍の距離に相当する。
    【アルフォンス】
        「近い!!」

    【ジャンヌ】
        「動力を絞って、パッシブ反応を遅らせたようです。」


    突然、着弾判定の警報音が鳴り響いた。
    【マリ】
        「5番艦、8番艦にレーザー着弾、前方の艦隊からの砲撃です」

    撃破は免れたが、艦のポイント残高は次に当たれば撃沈判定を受ける水準にまで減っている。
    シミュレーションでは、各艦の防御力と火力にポイントが割り当てられ、防御ポイントがマイナスになった瞬間に沈没判定が下されて退場、訓練生は直ちにログアウトしなければならない。
    一定期間内(約1年)におけるポイントの残数の総合計数が基準に達すると、操艦免許の発行権利が得られる。
    攻撃した方は、相手のフネを沈めても攻撃は操艦とは無関係の技術の為、操艦免許のポイントとし考慮されないが、砲術への評価対象として加算される仕組みになっている。

    【アン】
        「シールドが効いていない!?」

    レーザーの波長とシールドの波長が合わなければ、効率的に防御ができない。
    そこで観測したレーザー波長から最適な防御シールドに必要な周波数を計算し、人工電子結界の発生デバイスへと修正値を送り込む。
    もちろん攻撃する側も相手のシールドが同調される事を想定し、パラメータを適時変更させていかなければならない。

    【マリ】
        「シールド周波数を補正しました。」
        「次は防ぎます。」

    【レイチェル】
        「全艦に周波数転送!」

    センサーが新たなエネルギー放射を感知し、警報音で知らせる。
    【アルフォンス】
        「下方の艦隊に多数の熱源反応」
        「しかし、反応消失」

    【レイチェル】
        「雷撃の可能性あり、全艦、ECM開始っ!!」 ※6
        「突発的な衝撃に備えよっ!!」

    火器管制用の重力探査ビームに追跡されている事を示す警報音が鳴り響く。
    【アルフォンス】
        「前方の艦より、追尾用重力探査来ました。」※7

    すでに完全にロックされている事を悟った。 ※8
    【マリ】
        「第2斉射来ますっ!!」

    【レイチェル】
        「全艦、散開!!」
        「艦隊砲撃戦開始」


        ※3 パッシブセンサー
            受信専用のセンサーで、例えばレーダーや重力探査等は、こちらから
            エネルギーを放出するのでアクティブセンサーと呼ばれている。
            受信専用はこちらからエネルギーを放出しないので秘匿性に優れるが、
            相手が活動しない限りは発見も困難となる。

        ※4 Ping
            アクティブセンサーの機能で、エネルギーを放出して、跳ね返ってくる反射波から目標の位置を特定する。

        ※5 Ls=Light Second・・・光が1秒で進む距離

        ※6 Electronic Counter Measures・・・通称、電子戦と呼び、
            センサーを使用して攻撃してくる兵器に対してセンサーを無効に
            するようなエネルギーを放出して兵器としての効力を奪う。

        ※7 追尾用重力探査・・・火器管制システムの機能で、
            目標に対してエネルギーを放出してその反射波から正確な位置を割り出し、
            レーザーやドローンの照準に使用する。

        ※8 ロック・・・追尾用重力探査を断続的に浴びせられている状態で、
            正確に追跡されている事を示す。


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    ●第1戦隊
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    【サッチ】
        「第2戦隊の動きはどう?」

    【サダッチ】
        「押されているようです。」
        「すでに3隻が沈み、2隻が大破戦闘不能・・・まもなく退場でしょう。」
        「2隻が損傷を受けつつも損害は軽微の模様です。」

    【ナナ】
        「敵は、第2戦隊を中心に包囲陣系をとりつつあります。」
        「コンバットスフィアが形成されるとマズイわね。」

    【もっちゃん】
        「第1戦隊 動きますか ?」

    【サッチ】
        「まだよ。」
        「残りの艦の位置が掴めなければ挟まれるリスクがあるわよ。」


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    ●第2戦隊
    -----------------------
    【シャルロット】
        「良子、なに逃げまわってるのよ!!」
        「ちゃんと狙って撃たないとダメでしょっ!」

    【良子】
        「操縦と攻撃、いっぺんにできないよっ」

    【シャルロット】
        「だからノロマと言われるのよっ!」
        「馬鹿っ!!」

    【良子】
        「シャルロットちゃん、何か飛んでくる」

    【シャルロット】
        「だから何がよっ!!」

    【良子】
        「わからないよ。」
        「一瞬センサーに感があっただけだもん」

    【シャルロット】
        「この役ただずっ!!」

    【良子】
        「ご、ごめんなさいっ!


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    ●第1戦隊
    -----------------------
    【サダッチ】
        「・・・第2戦隊不利ね」

    【サッチ】
        「このまま支援に向かいたいけれど、残りの敵艦の配置が判らないまま飛び出すのは危険だわ」

    【もっちゃん】
        「どうする?」

    【サッチ】
        「作戦が失敗すれば。艦隊を編成した私の責任だわ」

    【サダッチ】
        「何いってるの?」
        「アンタの責任ぢゃないわよ」

    【ノブちゃん】
        「もともと東郷先生が艦隊編成を考えてくれてるはずだったんでしょ ?」

    【ナナ】
        「欠席しているんぢゃ意味ないし。」

    【ノブちゃん】
        「そもそも、あの変態教師が艦隊の編成なんて出来たのかしら?」


    【ノブちゃん】
        「ぁ、」
        「旗艦が動きます。」
        「ぇ!? ぇええええええええーーーーーっ!!」
        「シャンプしましたっ!!」

    【おみくじ】
        「メインベルト宙域にて旗艦のシグナルをキャッチしました」※9

    【サッチ】
        「ぇっ!?」
        「そんなところへ」

    【トミちゃん】
        「身を隠すのかな?」

    【ナナ】
        「なんか、もうシナリオがむちゃくちゃね・・・。」

    【トミちゃん】
        「メインベルト小惑星帯とはいえ、アニメや映画みたいに、そこらじゅうが岩だらけと言うわけでもないわよ。」
        「センサー使えばすぐに位置がバレるわよ。」

    【サダッチ】
        「どうする、旗艦が前にいっちゃったから、私達も動く?」
        「第2戦隊たすけに行かなくちゃ。」


    【サッチ】
        「くっ・・・」
        「第1戦隊、全艦、動くわよっ!!」
        「ついてきてっ!」

    【もっちゃん】
        「旗艦、どうするの?」

    【サッチ】
        「放置します」


    【サッチ】
        「敵艦の位置を特定するわ、水星方面に重力探査、Ping打てっ!!

    【サッチ】
        「5秒あけて、もう一回っ!!」

    【なるみ】
        「敵艦位置特定!!」
        「現在、第2戦隊は7隻の駆逐戦隊と8隻の駆逐戦隊とエンゲージしています。」※10
        「各戦隊には1隻の巡洋艦を擁しておりこれが各戦隊の指揮をとっているものと推測します。」
        「水星の影に巡洋艦22隻と駆逐艦8隻が待機しており、おそらくこちらが主力でしょう」
        「他に、太陽の西側にも駆逐戦隊を補足しており、2回目のPingとの差分で、第2戦隊へ向けて移動している事が判明しています。」
        「駆逐艦5隻の姿が見えませんので、倒したものと思われますが、第2戦隊も6隻を失っています。」


    【サダッチ】
        「第2戦隊は、太陽と水星の影に隠れた艦隊を重力探査では捉えられませんから、どこから敵の増援が出てくるか分からない状態で戦っている事になります。」

    【もっちゃん】
        「でも、基本的に最初のエンゲージで全天探査を行っているから、水星か太陽か、どちらかに敵の残りが潜んでいるか推測はできるでしょ ?」※11


    【ナナ】
        「しかし、戦力の配分までは判りません。 水星の影に全戦力を集中させているかもしれませんし、太陽の影にかもしれません。」
        「やはりこちらが出て、敵の主力を牽制したほうがいいかもしれませんね。」
        「どのみち、こちらのPingで、敵にも私達の場所を知られました。」

    【サッチ】
        「敵が水星周辺から動いていない事がわかったのですから、とりあえず、旗艦はメインベルトに隠れてもらってて、私達で第2戦隊を助けに行くわよ。」
        「この状況下で、敵も私達が第2戦隊を救出に来ることは想定するでしょうし、我々もそれ以外の手段はないわ。」

    【サダッチ】
        「いまのPingで、牽制したことになるから、影から引きずり出して第2戦隊からも見えるようになるわよ。」
        「Links88起動、第2戦隊とデータリンク開始。」※12
        「潜んでいる敵艦の位置を送信してあげて。」

    【サッチ】
        「第1戦隊全艦へ」
        「ジェネレーターミリタリーパワー」(発電機を戦闘出力に移行)
        「60カウント、ショートジャンプ」(60秒後に超短距離ジャンプへ移行)

    【サダッチ】
        「ネガティブグラビティドライブ、ジャンプモード起動」
        「各艦、ジャンプゲード設定」

    【まっちゃん】
        「各艦のジャンプモード起動を確認したわ。」

    【サッチ】
        「艦砲射撃用意っ!!」
        「距離 2336Ls!」
        「第2戦隊の左5Ls、上方5Lsの位置を狙って、」
        「続けて、同じ距離で、水星の影の西側、6Ls付近を適当に狙って下さい。」

    【ケンジ】
        「射撃管制システム起動」

    【サッチ】
        「射撃用意っ!!」

    【ケンジ】
        「ちょ、ちょっとまてよ!」
        「射撃用重力探査は撃たないのかよ?」

    【サッチ】
        「この距離で主砲を撃っても、あっちに届くまで39分かかるわ。」
        「Ping撃っても撃たなくても、当たりはしないわよ。」
        「でも、突然レーザーが飛んできたほうが彼らも驚くでしょ ?」
        「敵は、私達の最初の重力探査で、位置が知られた事を認識している筈ですから、当然移動しなくては危険だと分かっている筈だわ。」

    【サッチ】
        「全艦、第1一斉射・・・撃てっ!!
        「続けて、第2地点へ、第2一斉射・・・撃てっ!!

    体育館の特設シミュレーター会場に設置された巨大スクリーンには、第1戦隊が放ったレーザー砲が発射されたと示すデータが
    直進するラインに表現されて表示された。
    光速のレーザーでさえ着弾まで39分。
    たまたま、今回の模擬戦では、太陽と水星と木星は一直線に並んでいるが、実際は公転周期の関係で着弾までの所要時間はもっと伸びる。


    【サッチ】
        「各艦ジャンプサイン発信!!」
        「全艦、ジャンプっ!!」

    第1戦隊は第2戦隊から3Lsの距離ピタリにジャンプアウトしてきた。

    【サッチ】
        「全艦、亜光速ドライブ起動」
        「全艦リングアップ」(巡航に移行)

    【まっちゃん】
        「各艦、対空監視厳にせよ」

    【サダッチ】
        「Ping、全天探査、1発 発射っ!!

    【なるみ】
        「木星宙域からのPing時とは少し移動していますが(当然か・・・)、敵艦の配置はほぼ予想の範囲内です。」

    【サダッチ】
        「念の為に、SIF(Selective Identification Feature:敵味方識別)とCIP(Combat Identification Panel:敵味方識別パネル)で友軍艦を識別し、」
        「Links88にて最新の位置情報を共有ののち、第1戦隊各艦は艦隊戦の準備に入れっ!!」

    【なるみ】
        「第2戦隊、残り5隻です。」

    【サッチ】
        「ちっ、かなり不利な情勢ね。」

    突然、警報音が鳴り響く。
    【なるみ】
        「センサーに微弱な熱源を感知っ!!」

    【ナナ】
        「どこっ!?」

    【なるみ】
        「000の180・・・真下ですっ!」※13
        「雷撃ですっ!! 数、40っ!!」

    【ケンジ】
        「第2戦隊のECMは、コイツを警戒しての事なのか ?」

    さらに、重力探査のビームを浴びせられた事を知らせる警報が鳴る。
    【なるみ】
        「魚雷からPing来ました!」
        「完全にこちらを捉えてますっ!」

    【サッチ】
        「人工電子結界展開っ!!」
        「全艦、緊急一斉下回頭90!」(下方向90度に一斉回頭)
        「おもて下回頭、バウ上、スタン下いっぱい!」(艦首下回頭、艦首/艦尾スラスター全開)
        「いまさらだが、ECM最大出力っ!」
        「IRディスペンサーロケット発射っ!!」※14
        「魚雷から来るPingの投影断面積を減らさないと当たるわよっ!」
        「遅れないでっ!!」


    【サダッチ】
        「なんとか振り切って反撃のチャンスを狙うわよっ」

    【トミちゃん】
        「ねぇ誰が発射した魚雷なの ?」

    【サダッチ】
        「きっと、第2戦隊の下方に位置している駆逐戦隊からよ。」

    ECMの効果で数発の魚雷が第1戦隊を見失って迷走していく。
    【なるみ】
        「魚雷5発、コースアウトしますが、残りなお接近、着弾まであと30秒切りましたっ!!」

    【サッチ】
        「全艦、防空砲撃戦用意っ!!」
        「防空戦開始っ!」

    【サダッチ】
        「対空ドローン発射っ!!
        「続いて、対空レーザー準備っ!!」
        「全艦、撃ち方始めっ!

    光速のレーザーで対空迎撃を行うのは容易に見えるが、実はそんなに簡単ではない。
    高い熱量で破壊するエネルギー系兵器による迎撃を想定し、魚雷も放熱性に優れた素材で作られており、容易には破壊できないのだ。
    その為、地球で言うミサイルを用いた対空ドローンを併用して魚雷を迎え撃つ。

    モニターにドローンの航跡が魚雷に向かっていく。

    【なるみ】
        「魚雷、5発撃墜、なお30接近。」

    駆逐艦のセンサーが捉えた魚雷のコースに対空ドローンが誘導され、12発を墜す。

    第1戦隊は、飛来する魚雷に正対しており、対空砲火は正面に集中するだけでよく、
    しかも迎撃対象とする魚雷は、Links88 によりデータが共有されているため、各艦に割り当てられた魚雷のみを狙い撃ちすればよい。
    これは地球の洋上艦でも普通に行われる一般的な対空迎撃ミッションだが、これを学生たちがこなしてゆく。

    【なるみ】
        「残り、18!!」

    確実に数を減らしてはいるがまだ戦隊を壊滅させるに十分な魚雷が生き残っていた。

    【サダッチ】
        「怯むなっ!!」
        「艦を傾けると狙い撃ちにされるぞっ!!」

    魚雷に対して、艦を傾ければ魚雷に搭載されているセンサーに捉えられやすくなる。
    この為、向かってくる魚雷、他にもドローンに対しては正面を向いて反射波を低減させるのがセオリーとなっている。

    戦術モニターには、レーザーが魚雷に吸い込まれている事を示しているが、なかなか撃墜できないでいる。

    【キヨちゃん】
        「魚雷ってどんだけ硬いんよっ!!」
        「全然墜ちないぢゃん。」

    【トミちゃん】
        「魚雷データの設定パラメータに間違いがあるんぢゃないの ???」

    【なるみ】
        「7発撃墜っ!!」
        「残り11発」

    【サッチ】
        「全艦、識神用意っ!!」

    実際の識神は呪符型ナノスキルを有する巫女が操作するが、シミュレータ上では彼女達が存在するものとして識神もコンピュータ上にシュミレートされる。

    固形ナノシールドから発展した識神は駆逐艦の形状を模倣する事で、デコイ(囮)の役目を果たし、艦隊の前方に識神が展開されると、模倣した艦に似た運動を行い魚雷を混乱させていく。

    【サッチ】
        「識神展開っ!!」

    識神の展開を確認するとすかさず緊急離脱を指示していった。
    【サッチ】
        「全艦、緊急一斉回頭180」(180度反転)
        「フルアスタンフル」(全舷全速後進)
        「おもて下回頭、バウ上、スタン下いっぱい」(艦首下回頭、艦首/艦尾スラスター全開)

    急制動をかけつつ艦首と艦尾のスラスターを全速で噴射し、180度の回頭を行っていく。

    【サッチ】
        「スラスターセンター」(スラスターを中央に戻す)

    【サッチ】
        「全艦、フルアヘッフル」(全舷全速前進)

    【サダッチ】
        「ずらかるわよっ!!」

    【サッチ】
        「みんな、ちゃんと付いて来るのよっ!!」

    緊急離脱していく艦の後方では身代わりとなった識神に次々と魚雷が吸い込まれていった。

        ※9 メインベルト
            火星と木星の中間に位置する小惑星帯のこと
        ※10 エンゲージ・・・交戦
        ※11 全天探査・・・全天探索とも言う
                前後上下左右、全周囲に対してエネルギー波を放出して反射波を測定して周囲の状況を把握する。
        ※12 Links88・・・宇宙艦隊用に開発された戦術データ通信システムで、正確には、TDIL-S88 Tactical Digital Information Link for Space Ver.88と呼ばれる。
            各艦の戦術データを共有化する事で効率的な作戦を行うことを目的としている。
        ※13 宇宙空間での方向を示す方法の一つで、自分の正面を0度とし、水平方向に360度、垂直方向に360度として方向を指し示す方式
        ※14 IRディスペンサーロケット・・・強力な赤外線を放出するロケットの事で、熱線追尾型のセンサーを狂わすための防御装置。


    -----------------------
    ●旗艦とその直掩
    -----------------------

    【みさ】
        「教官、なかなか見事な操艦ですね。」
    【さえ】
        「添下学園には押されていますが、こんな整然とした艦隊運動は洋上艦隊でもあまり見ないわよ。」
        「なんだかんだと、40発もの魚雷を全弾回避しちゃいましたね・・・。」

    【東郷】
        「第2戦隊の様子は?」

    【さえ】
        「ちょっと厳しいわね。」
        「低学年の子たちはほぼ全滅・・・ん!?」

    【みさ】
        「どうかしたの?」
        「ぃえ、低学年でも、意外に頑張ってる子たちがいるわ。」

    【さえ】
        「シャルロットと宮原ね。」
        「シャルロットとはもともとエリートだから腕は一級だけれど、宮原さんは最初何をやっても人よりテンポがやや遅れる子だったのよ。」
        「あんまりクラスの子たちともうち解けられない様子だったので、少し心配していたのよ。」
        「しかし最近みるみる腕を上げてきているわ。」
        「飛び抜けた才能や適性があったわけでもないけれど、ものすごく努力しているみたいで、将来が楽しみな子よ。」

    【さえ】
        「さて、どうする?」

    【みさ】
        「そろそろ旗艦も動きますか?」

    【東郷】
        「まだいいんぢゃないの?」
        「第1戦隊の "仕返し" を見てみたい。」

    【みさ】
        「全滅したらどうするのよ」

    【東郷】
        「旗艦が沈まなければ問題なし」

    【さえ】
        「鬼かっ!!」

    【東郷】
        「教官は、あくまでお手本だから、腕前見せるにしても、あの子たち一生懸命戦ってる最中に脇見運転できないっしょ。」
        「なので、どうせみせるなら、あの子たちが観客席に退場になってから見せたほうがいいと思って。」

    【みさ】
        「まったく貴方って人は・・・。」

    【さえ】
        「あの子たち、聞いたら絶対に怒るわよ♪」
        「私はしらないから。」


    -----------------------
    ●第1/2戦隊
    -----------------------
    【レイチェル】
        「なに、やってきて早々、魚雷に追い回されてるワケ ?」

    【サダッチ】
        「あら、それはそちらが魚雷の警告してくれなかったからでしょう!」

    【アン】
        「しかし、よくあれだけの数を回避できたわね。」

    【フランシーヌ】
        「それはウチの指揮官が優秀だからよっ!」

    【ジャンヌ】
        「なんですって !?」

    【シャルロット】
        「あんたさっき、一瞬見つけて見失ったの、魚雷でしょっ!」
        「あんたのせいで1戦隊がやられるところだったのよっ!!」

    【良子】
        「ぇえっ!? 私のせいなの ?」

    【レイチェル】
        「ケンカするんぢゃないのっ!!」


    【サッチ】
        「体制を立て直すわ」

    【レイチェル】
        「2戦隊で生き残っているのは、私とアン、ジャンヌ、シャルロットに良子の5名よ。」
        「他は退場してログアウトしたわ。」

    【フランシーヌ】
        「助けにきてやったわよ」

    【シャルロット】
        「たのんでないわよっ!!」

    【フランシーヌ】
        「あら、ノロマの良子も生き残っていたの?」
        「しぶといわね」

    【シャルロット】
        「逃げまわってばかりで全然役にたたないんだから。」

    【良子】
        「わたし頑張ったもん、1隻やっつけたよっ!!」

    【シャルロット】
        「あれは偶然でしょっ!!」
        「操作ミスで放った魚雷が敵に命中しただけで、そもそも前を走ってる私に当たったらどうすんのよっ!!」

    【良子】
        「偶然じゃないもんっ! ちゃんと狙ったよっ!!」


    【もっちゃん】
        「2人とも止めなさいっ!!」

    【シャルロット】【良子】
        「はぃ・・・すいません・・・。」

    【シャルロット】
        「アンタのせいで怒られたぢゃないのよっ!!」
        「馬鹿っ!!」

    【サッチ】
        「さて、反撃にでるわよっ!!」
        「みんなっ! 気合入れていくわよっ!!」

    【レイチェル】
        「ねぇ ?」

    【サッチ】
        「なによ ?」

    【レイチェル】
        「旗艦はどうしたの ?」

    【ナナ】
        「置いてきました。」

    【レイチェル】
        「ぇっ !?」


    そして、いまから帯締学園の反撃が開始される ???

 

 

 

 

 

 

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